サニィ・ハンセンはカウンセラーはキャリアカウンセリングを通して、クライアントがバランスのとれた人生を実現し、その選択や決定を通して社会に積極的な変化をもたらす人となるように手助けする役割を担うことが大切だと述べています。そして、人生や仕事を統合する枠組みとして統合的生涯設計(ILP Integrative Life Planning)を構築しました。
統合的生涯設計、人生の4つの要素
ハンセンはキャリアを構成する人生の役割について、人生の4つの要素が統合されなければならないと考えています。それは仕事(Labor)、学習(Learning)、余暇(Leisure)、愛(Love)の4つのLです。それぞれ4つの要素が上手く組み合わさってこそ意味ある全体になります。
個人は全体としてどのような生き方をしたいのかが最も重要な課題として、ハンセンの理論では生き方の視点をキャリア概念の根底に捉えています。ハンセンは個人のキャリア形成・開発を個人レベルに留めることなく、社会ニーズ、地域ニーズも同時に視野に入れて世界・社会発展と個人を統合させる社会的な視点が必要だと考えました。ハンセンは人生の役割をキルトに例え、それぞれの人生の役割がパッチワークのように縫い合わされ、組み合わされ、統合され1つの意味ある全体になると述べています。
仕事(Labor)、学習(Learning)、余暇(Leisure)、愛(Love)の4つの人生の4要素で大切なのはあくまで全体性や統合性です。人生における様々な役割を細かく分類して捉えることではありません。キャリア概念の中核とされてきた職業や職務は人の人生・生活の中でそれだけ切り離すことは決して出来ないと強調しています。人は仕事だけをしていれば充実した豊かな人生を送れるのではなく、仕事と並行して余暇・学習・愛がその中に存在していなければ本当に良い仕事は出来ません。偏った生活の中ではいつしか味気なく、貧しいものに変容するものであるとハンセンは指摘しています。
キャリア・プランの課題
統合的生涯設計は個人や文化が直面する6つのテーマ、すなわち重要な6つの人生課題を提示しています。統合的生涯設計はアメリカ文化に基礎を置いてはいるものの、以下に述べる課題の中には他の文化にも通じるものもあります。
1.グローバルな状況を変化させるためになすべき仕事を探す
自分に合う仕事を探すという従来の発想とは異なり、地域や地球規模で我々が直面している多くの問題を解決するために、創造性を発揮してなすべき仕事に取り組むことを示します。
2.人生を意味ある全体像の中に織り込む
キャリア設計は仕事や職場での役割にばかり焦点を当ててきたため、人間の社会性や知性、肉体、精神、感情などの役割や発達を無視してしまうこともありました。従来見過ごされてきた面や男女の役割にも焦点を当て、男も女もその人生に自己充足や結びつきを感じられるようにすることが大切ということを示します。
3.家庭と仕事の間を結ぶ
職場や家族形態が従来型からどんどん変化していることを考えると、役割や人間関係を新たな視点で捉える必要が生じてきます。そこで統合的生涯設計は男女が平等のパートナーとして協力し合うことを強調していることを示します。
4.多元性と包括性を大切にする
人種、性別、年齢、障害、信念、言語、宗教など様々な違いをきちんと意識し、様々な視点からものを見ることができるようになることを示します。
5.個人の転機と組織の変革に共に対処する
転機において個人が決断することは1つの大切な課題です。また、個人が自分自身、家庭、組織における変化の担い手になろうということも強調していることを示します。
6.精神性、人生の目的、意味を探求する
ハンセンは精神性を宗教的な意味ではなく、一人ひとりがそこから自分自身の意味を理解している中核そのものという意味で捉えています。より大きな社会やコミュニティへの貢献という統合的生涯設計の側面を支える概念として使っています。
統合的生涯設計は個人の包括的な成長だけでなく、コミュニティの改善と民主主義社会が目指すゴールをも視野に入れています。6つの課題は相互に関連がしているが、2番4番6番は個の発達、1番、3番、5番はより外界や状況との関係に焦点を当てたものです。統合的生涯設計は民主的価値観と社会主義への関心に強く裏打ちされた概念なのです。