論理療法や認知療法は認知アプローチを行うカウンセリングの方法で、問題行動や情緒的混乱に影響を及ぼす内的な認知過程に注目する療法です。
論理療法によるアプローチ
アルバート・エリス(Ellis, A)は1995年に論理療法を提唱しました。エリスは思考の過程に焦点を当てクライアントの問題とそれに付随する不快な感情は過去の出来事によって引き起こらせるというよりは、その事実をどのように受け止め、捉え、意味付けているかによって生じると考えました。問題の源は外界や環境、過去の出来事そのものにあるのではなく、ビリーフと呼ばれるその個人の認知と考え方にあるとしました。
問題の原因は個人の非論理的な思考にあり、こうありたいを絶対こうあらねばならないと考え自分自身を強く縛りつけ、その思考を柔軟に変えることができないことが原因となって問題は起きるとエリスは考えました。この非論理的思考はイラショナル・ビリーフと呼ばれます。そしてエリスは論理療法の基本的な考え方としてABCDEモデルによって表しました。ABCDEモデルを以下に示します。
A(Activating Event)
問題のきっかけ、その人が混乱させられるきっかけとなった出来事や物事を示します。
B(Belief System)
その人が信じている思い込み、その思い込みが論理的であるかないかによって結果が異なることを示します。
C(Consequence)
AをBによって判断した結果生じる感情を示します。
D(Discriminant and Dispute)
不快な感情をもたらした非論理的な信念を明らかにし、それに徹底的に反論して粉砕することを示します。
E(Effect)
合理的な信念を獲得し不快な感情が解消されることを示します。
このモデルで不快な感情(C)はそれに先行するできごと(A)によって引き起こされるのではなく、その人の非論理的な信念(B)によって発生します。不快な感情をもたらした非合理的な信念(B)に反論(D)を加え論理的な信念を獲得し、不快な感情を低減することができた時、効果(E)がもたらされるという考え方です。
このようなモデルを用いて説明する論理的療法の目的は、非合理的な信念を現実的で論理的な信念に変えることで、認知・感情・行動などに総合的に働きかけることによって行われているのです。
クライアントの持つ非論理的信念にカウンセラーが反論することによって何故そのような考えを持つのかの理由や根拠を尋ねます。しかし、クライアントは非理論的信念に対する確固たる根拠や理由がなく、カウンセラーに説明することができません。そこで、自分が固執していた考えが非合理的で現実にそぐわないことに次第に気づきます。
その後、現実に合わせて合理的な観点から新たに人生哲学をカードに書き、何度も声に出して読み上げ自分自身に言い聞かせます。これは自己宣言法と言われ、反論説得法の効果を高めたり、効果的な人生哲学をクライアントに浸透させるのに効果的です。この他には、感情や行動に働きかけるユニークな方法として、羞恥心粉砕法、役割交換法、ユーモアソングなど様々なユニークな技法をエリスは考案しています。
キャリアカウンセリングの対象となるクライアントには、こうした非理論的信念を持っているために、行き詰まり問題を打開できず葛藤するクライアントが多数です。こうしたエリスの論理療法はクライアントの誤った思い込みなどを修正し、問題解決を前向きに、理性的に、現実的に行う場合に有効に活用することができます。
一方、非常に論理的な思考がクライアントに要求されるため、カウンセリングの過程でクライアントが感情的になって思考を放棄してしまうこともしばしば見られます。論理的なカウンセリングを行うからといって、信頼関係を軽視していいものではないので注意が必要です。