そのほか、アーロン・ベック(Beck, A. T.)は鬱病の患者の不安や抑鬱、自責の念などの不快な感情は、誤って学習された記憶やイメージ、考え方が習慣化した非合理的、非現実的な考え方によって引き起こされることを明らかにしました。
自分の意思に関係なく連鎖的に浮かんでくるため、次第に不快な感情が強化されること、色々な状況によってある感情と共に瞬間的に思い浮かぶ考え方やイメージを自動思考といいます。
自動思考には共通したパターンがあります。その背景には一貫した認知的構え、スキーマが存在するのです。スキーマは、~でなければならない、~であるべきだ、という信念としてその人の中に存在するものです。スキーマがあるために自動思考が起こるのですが、その過程に作用しているのが認知の歪みです。事実や出来事を歪んで認知するため、その結果不快な感情を持つと考えられます。こうした認知の歪みの主なものの特性を以下にあげます。
1.全か無か思考
白か黒か、良いか悪いか、成功か失敗か、前進か後退か、など極端な二者択一思考を示します。
2.過度の一般化
些細な事実や出来事を過度に一般化して考えることを示します。
3.肯定的側面の否認
否定的側面を取り上げ意味づけ、肯定的側面は無視することを示します。
4.破局的な見方
わずかな困難からも最悪な破局や不幸な結末を考え決め付けることを示します。
5.恣意的な推論
根拠が無いのに勝手にあることを信じたり、思いつきで判断することを示します。
6.誇張と矮小化
出来事や事実を実際よりも高く評価したり、反対に軽視することを示します。
7.自己関連付け
本来自分とは無関係のことを自分に関連付けて判断することを示します。
認知療法ではこうした自動思考、スキーマ、認知の歪みなど認知的側面に働きかけることによって、クライアントの不快な感情を修正する方法と行動面に直接働きかける方法があります。
キャリアカウンセリングへの応用
キャリアカウンセリングにおいては、クライアントの価値観や職業観、将来の展望、ライフキャリア計画などにおける認知的な側面を取り上げ、その明確化や修正をはかります。
現状や今後に対するキャリアへの不安を持つクライアントは、一般に非論理思考や認知の歪みが認められる場合が多いです。クライアントの持つ非論理的な信念などは論理療法や認知療法を用いてまず修正を行います。将来のキャリアの方向性に関わる不快な感情を伴うカウンセリングには、不快な感情を低減するための方法として認知療法によるアプローチが有効です。なぜなら、認知の歪みが存在するために、クライアントは非論理的、不合理な考えに捉われているからです。
そこから脱出できない場合には、こうした非論理的信念はキャリアに関する問題解決を行う上で支障をきたすことになります。非理論的信念の例として次のようなものがあります。
- 自分だけリストラにあったのは自分には運がないからだ。絶対自分の人生は今後も上手くいかない。
- 自分は学歴が無いから何をやっても全て失敗する。
- 女性だからという理由で差別されて、これからも誰にも認められることはない。
上記のように勝手に決め付け非論理的思考を持ちます。クライアントはその結果生じる不快な感情が強いため、キャリア問題の解決がなかなかできず困惑しているケースが多いのです。
したがって、歪んだ認知により自分の進歩が阻まれているようなクライアントには、カウンセラーは論理療法によるアプローチ、認知療法によるアプローチを行います。そして、現実に即した論理的思考に基づいたキャリア選択、意思決定、具体的なキャリア計画を作成し、キャリアサポートを行うことが大切です。