LESSON 1 キャリアカウンセリングの歴史

歴史

キャリアカウンセリングの歴史は日本では浅く、アメリカでは100年以上の歴史があります。キャリアカウンセリングの歴史を辿ることで、理論への理解を深めていきましょう。
キャリアカウンセリングの始まりは、20世紀初めにアメリカのボストン職業局で始まった職業指導運動です。この運動はフランク・パーソンズ(Parsons, F)の考えを実践した運動で、社会改革思想の立場から失業した青少年のための職業指導の重要性を説いた人物です。
パーソンズは職業指導の目的を以下のように述べています。

  1. 自分自身の適性、能力、興味、資源、限界、他の資源も含めた自分自身について明確に理解すること。
  2. さまざまな職種に関して成功のための必須条件や利点と不利、保障、将来性などさまざまな点についての展望に関する情報・知識をもつこと。
  3. 1と2の事実の関係性について合理的に推論すること。

パーソンズはこのうちの3の項目をカウンセリングと考え、職業指導カウンセラーという言葉を用いました。この段階ではキャリアという言葉は使われず、職業という言葉が使われています。
 
当時の職業指導カウンセラーの役割はカウンセリングによる面接過程よりテストを用いた診断に重きを置いていました。そのため、この時点では現在のような相談を聞く「カウンセリング」とは異なり、相談に乗り自己決定を促すというよりは、テストをし、見合ったものを指示するという、カウンセラー中心の指示的カウンセリングでした。ちなみに、この段階で今現在使われている診断に用いるアセスメントツールのほとんどが完成しています。
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アメリカは1929年から10年経済不況により多くの失業者が出たり、1945年には第二次世界大戦が終わり戦地からの帰還者の就業などキャリアカウンセリングの需要が高まっていきます。
同じ頃、フロイトによる精神分析学の台頭などをきっかけに、カール・ロジャーズによるそれまでの指示的カウンセリングへの批判がなされ、「非指示的カウンセリング」が提唱されました。
こうした流れの中で、指示的カウンセリング、非指示的カウンセリングのバランスをとる方法としてドナルド・スーパーによる開発的カウンセリングが提唱され、徐々に現在の「キャリア」という考え方へと発展していきます。
 

日本での歴史

一方日本は労働行政の一環として職業指導が行われるようになりました。1917年東京に児童教養研究所、1920年大阪に少年職業相談所が設立され、1921年東京の職業紹介所に少年相談部が設置されました。1923年には高等小学校で職業指導が始まりました。
このように日本はアメリカと違い就業前の青少年を対象としていました。就業指導は進学希望の生徒を含めた全生徒の卒業進路をサポートする進路指導へなりましたが、現実の進路指導はほぼ「どの高校・大学に進むのか」といった進学指導にとどまっており、広義の職業指導は青少年を対象にもあまり浸透していないのが現状です。
日本でもバブル崩壊などに伴い、失業者が増加し、アメリカと同様の社会人へのキャリアカウンセリングの需要が高まっていきます。そのような成り立ちからか、キャリアカウンセリングは「失敗した人がセカンドキャリアの選択の相談をするもの」と誤解されてきている側面もありますが、その後現代に近づくにつれ、社員や個人の自発的・自律的なキャリア選択の重要性が理解され、キャリアカウンセリングへの理解・需要が高まってきています。