LESSON 2-9 ジョン・クランボルツの理論

クランボルツの理論では学習し続ける存在としての人間が強調されています。すなわち、人間は新しい行動を獲得したり、これまでの行動を変容していくことが可能ということです。これはホランドの類型化を強調する考え方とは対照的です。
クランボルツは、

  1. 遺伝的要素と特殊能力(先天的資質)
  2. 環境条件
  3. 学習経験
  4. 課題へのアプローチスキル

の4つがキャリアの形成・選択において主要な要因になると考えました。
1,2はこれまでの理論でも大まかに説明してきたとおりですが、「学習経験」「課題へのアプローチスキル」を重視するところがクランボルツの理論の特徴です。

学習経験

学習経験とは、過去に様々な行動の結果として帰ってきたフィードバックをどのように認識してきたかということの蓄積です。学習は「道具的学習」「連合的学習」の2つに分類されます。
道具的学習とは、人が何かを行動した結果、周囲の人からプラスのフィードバックを受ければその行動・考え方を強化し、マイナスのフィードバックの場合は行動を止めたりする、直接的な学習現象を指します。
連合的学習とは、特に意識していなかった感情的に中立な出来事が、ある感情と結びつくことで意味を持つようになるような学習です。例えば、家族が病気になった際、親身になって相談に乗り、家族の命を救ってくれた医師と結びつけて医療に興味を持つ、といったことが挙げられます。それまでは特に医療には興味も関心もなかったが、医師への気持ちをきっかけとして興味と医療が結びつく、といったイメージです。道具的学習とは直接のフィードバックがあったわけでない点が異なります。
このように人は学習によって興味を持つことから、計画的な学習経験によってクライアントの興味を促進し、意思決定を促すことができると考えました。

課題アプローチスキル

課題アプローチスキルとは、具体的な目標の設定や分析、情報収集など、どのように意思決定を行うかというスキルのことです。このスキルはキャリア形成の説明に役立つというよりは、現実的なスキルですから、意思決定、すなわちキャリア選択のスキルそのものであると言えます。これはそれ以外の3つの要因によって形成されていきます。

アルバート・バンデューラの学習理論

この「学習」とはどのようなものなのでしょうか。クランボルツの学習の考えを理解するために、その学習の理論の元と言えるアルバート・バンデューラの理論を見ていきましょう。バンデューラは従来の学習理論で説明されてきた直接経験による学習に加え観察学習を強調しました。また学習における予期の重要性に注目し、自己効力感を提唱しました。

直接経験による学習

直接経験による学習はオペラント条件付けの考えに基づいた考えです。オペラント条件付けは弁別刺激から反応、そして強化子の3項の関係から成り立つと考えられています。弁別刺激は反応が生じる機会を与える刺激、強化子は反応後に続き行動を増加させる刺激を表します。強化子には正と負があります。反応後に続く行動が増加するものが正で、減少するものが負です。

観察学習

バンデューラは学習が単に直接経験だけによるものというのなら学習は極めて危険なものと主張しています。負の強化子を得てから行動をやめるのではなく、他人の行動を観察し真似ることによって行動を行うのです。車に轢かれてから赤信号を渡ることを止めるのではなく、親が赤信号を渡らないのを観察し渡らないようになるということです。

自己効力感

バンデューラの社会的学習理論では認知的要因の役割が特に強調されています。行動の先行要因の中でも認知的要素である自己効力感は最重要視されています。自己効力感は自分が適切な行動を上手くできるかどうか効力予期のことです。
自己効力感は遂行行動の達成代理経験言語的説得情動喚起の4つの情報源に基づいています。遂行行動の達成は自分で必要な行動を実際に達成することができたという経験を意味します。代理経験はモデルを通じて自分にもできそうと効力予期を形成することです。言語的説得は言葉による説得を反復して用いることにより自己効力が高まることを意味します。情動喚起は生理的な状態によって効力予期が影響を受けることです。人前話す際に汗をかく経験した人が、次に人前で話す際にその感覚を思い出し効力感を低めるようなことです。

このように、人は日々生きる中で様々な情報を「学習」しています。決して机に座って勉強したり、セミナーを聞いたり、上司からのフィードバックを受けるだけが学習ではありません。
では、こういったほとんどコントロールできない外界からの情報で自然と学習してしまう人間は、どのようにキャリア選択を適切に行うために行動すればいいのでしょうか。次はその点を見ていきましょう。