シャインは従業員が組織の価値にどのように影響されていくのかという調査をしていましたが、思うような調査結果を得られませんでした。分析を進めるなかで会社の価値に個人が染まるのでなく、個人が独自のキャリアを歩んでいくという見解に至ったのです。
そして独自のキャリアがいくつかにパターン化されることを見出しました。そのパターンを特徴づけるものとして、キャリアにおける自己概念をキャリア・アンカーと名付けました。キャリアにおける自己概念とは自分が職務遂行にあたって得意なことや仕事を進める上での価値観についての自分自身の認識、噛み砕いて言えば「自分が大切にしている価値観」です。
8つのキャリア・アンカー
1.特定専門分野/機能別のコンピテンス
ある特定の業界・職種・分野にこだわるアンカーです。専門性の追求を目指しますが、いわゆる技術系に限らずずっと経理畑を歩む、などのケースも含みます。
2.全般管理コンピテンス
総合的な管理職位を目指すアンカーです。特定専門分野/機能別のコンピテンスと対照的に特定の分野にとどまらず、組織全体にわたる様々な経験を求めます。
3.自律/独立(自由)
制限に規則に縛られず、自律的に職務が進められることを重要とするアンカーです。内的な感覚として、自分の仕事のやり方を自由に自分自身が決めることを望みます。自分自身が自由に仕事を進められているという認識があればよいです。
4.保障/安定
生活の保障、安定を第一とするアンカーです。経済的に安定していることは誰しも望ましいことであるが、リスクをとって多く得るよりも安定を最も大切なこととします。
5.起業家的創造性
新規に自らのアイディアで起業・創造することを望むアンカーです。現在起業していなくても常に起業することを意識していることも含まれます。
6.純粋な挑戦
チャレンジングなこと、誰もしたことがないことに取り組むことを求めるアンカーです。ひとつの挑戦が達成したら、さらに新しい挑戦を追い求めます。挑戦すること、挑戦し続けること自体に価値を置きます。
7.奉仕/社会貢献
仕事の上で役に立っているという感覚を大切にするアンカーです。さらには、社会全体への貢献を求めることもあるため、所属している組織に限らない奉仕活動に専念することもあります。
8.生活様式
仕事生活とその他の生活との調和/バランスを保つことを重要視するアンカーです。最近増加の傾向にあります。
キャリア・アンカーの活用
カウンセラーがキャリア・アンカーを用いる際の留意点が2つあります。アンカーと職業を1対1で結びつけないこととアンカーを予想しないことです。
どのような職業にもそれぞれのアンカーとマッチする部分があります。例えば大学教授という職業も、世の中のためになる研究成果をあげたいという奉仕/社会検診の考え方の人もいれば、勤務形態が比較的自由であるという自律/独立な考えの人、自分が興味あるテーマを追求できるという特定専門分野/機能別コンピテンスな考えの人、大学教授の収入は安定しているという保障/安定という考えの人など、同一の職業においても価値観は人それぞれです。そのため、アンカーと職業を1対1で結びつけてはいけません。
また、アンカーは仕事を経験し始めて少しずつ明らかにされていきます。現時点で自分のアンカーが明確でない人は仕事経験を重ねるなかで譲れないアンカーが明確になってくるでしょう。
したがって、8つのキャリア・アンカーの分類を仕事経験のない学生にテストなどを用いて「この人はこのタイプっぽいな」というような予測しようとするのではなく、本人が自分自身の言葉でキャリアを紐解いてセルフイメージを明確にしていく際に手助けとなる枠組みとして活用していくべきです。